哲人と青年の議論によって、アドラー心理学の骨子が分かっていく、という内容の本です。
「わたしにとってのアドラー心理学とは、ギリシア哲学と同一線上にある思想であり、哲学です」(第23頁)と哲人がいうように、アドラー心理学は科学ではなく思想です。
その思想が、自分自身の人生観と適合するものが非常に多く、本書は大切な一冊になっています。
例えば「人は誰しも、客観的な世界に住んいるのではなく、自らが意味づけをほどこした主観的な世界に住んでいます」(第5頁)と述べられる主観論。
では、どう意味づけを施すかというと、いま現れている現象は、「過去の『原因』ではなく、いまの『目的』」(第27頁)に即すと言います。
すなわち、トラウマなどは存在せず、「われわれは過去の経験に『どのような意味を与えるか』によって、自らの生を決定している。
人生とは誰かに与えられるものではなく、自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです」(第30頁)と結びます。
この「目的論」には、深い納得を得ました。
行動の原因は、「今、どうしたいか」という「目的」の一点突破なのだということ。
身長が低いことを、長所であると捉えて生活していくか、気にせず過ごしていくか、コンプレックスであると思うか、現在の自分の「意味づけ」によって、自分の行動は変わっていきます。
その「意味づけ」により、「目的」が変わり、「目的」により、「行動」が変わります。
この「目的論」は、何よりも現実を変えることに繋がる非常に実践的かつ誰にでも当てはまる思想であると思います。
また、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」(第71頁)と喝破します。
そして、それは他者と比較するからであり、「『理想の自分』との比較」(第92頁)が大切だ、と説きます。
これも、自分に言い聞かせている言葉であるとともに、生徒によく言う言葉です。
同様に「課題の分離」(第139頁)という考え方も、自分の人生観の根幹をなしています。
「われわれは『これは誰の課題なのか?』という視点から、自分の課題と他者の課題とを分離していく必要がある」(第140頁)といい、「他者の課題に踏み込まない」(第140頁)ことの大切さを説きます。
あくまで、自分を変えることができるのは、自分しかいないということ。
生徒指導において、「静かにしなさい!」「自主勉をしっかりやりなさい!」と指導し、やらなければ怒るなどなど、教師は生徒をコントロールしたくなるけれども、行動を心から変えることができるのは、本人だけ。
アドラー心理学から学んだこの価値観が、自分の生徒をコントロールしたがる衝動にストップをかけています。
そして、この価値観は、「自分を変えることでしか、周りは変わらない(周りに対する価値づけも変わらない)」という重要な示唆も与えてくれています。
生徒のやる気を高められないのは、自分の在り方や関わり方の方に問題があるのだと、常に自分に視点を向けられるような、そんなメタ認知を自分にもたらしてくれる思想です。
最後に、「自由とは、他者から嫌われることである」(第162頁)という言葉を紹介します。「他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることも怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない」(第163頁)。
すなわち「幸せになる勇気には、『嫌われる勇気』も含まれます」(第164頁)という結論です。他者に嫌われるリスクを冒してでも自分の信念を優先するか。
自分の信念を抑えてでも、他者との良好な関係を築いていくか。
自分は、前者を優先していく人生の方が好きだなぁと思いますが、周囲との関係も気にしてしまう弱い人間でもあります。
そんな時、「嫌われる勇気」という言葉を思い出すと、自分の信念に誠実たらんと一歩踏みとどまれます。結局、アドラー心理学が向けている矢印は、常に自分。
あなた自身が変わらなければ、今の状況は変わらないということ。
そして、そんなアドラー心理学の思想が自分は大好きだなぁと思います。
自分が生きていく上で、中心となっている軸は、このアドラー心理学です。
本書を読了後、アドラー心理学について猛烈に調べ考えました。
本書は、自分の人生に最も影響を与えた本の一つであると断言できます。
追記(2019年8月6日)。
2018年の冬、自分は、「どんな子どもを育てたいのか」そして、「自分自身はどんな人間になりたいのか」ということを徹底的に考えた時期でした。
そして、本書と次に紹介する『幸せになる勇気』を改めてしっかりと読みました。
その中で、自分自身の教育観として、「つながる力(人を尊敬し、人に貢献し、人に感謝できる力)」というものを、一つ明確化しました。
尊敬、貢献など、幸せに生きていくために必要な考え方を中学生の段階で身につけてほしいし、自分も身につけていきたいし、そう思ったわけです。
自分の人生の目標、そして、自分が育てたいと考える子ども像も規定する、自分にとって、非常に大切な書籍が本書です。