まず、本書は、自分の世界史観に最も大きな影響を与えた書籍です。
初めて読んだときは、世界史を体系的に大観して見事に描いている記述に感動的でした。
その感動を少しでも紹介できれば嬉しく思います。
まず、本書では世界史を、「人と人をつなぐ種々の結びつき」(第9頁)である「ウェブ」の観点から、考察していきます。
人類の最初の大きなウェブの拡大は、古代文明です。大きなウェブが3つあったと分析しています。
メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、「これら三つの文明は最初から『相互に交流し合う一つの文明』の一部だったと捉えるのがよい。最初の『メトロポリタン・ウェブ』(大都市圏のウェブ)として、これを『ナイル=インダス回廊』と呼ぶ事にする」(第64頁)。
二つ目は「中国文明はただちに隣接する地域に刺激を与え、多様な社会を生んだ。中国を中心とする東アジアの『メトロポリタン・ウェブ』は、記録に残された歴史を通じて現在に至るまで、新たな土地へと拡張し続けている。これが二番目の『メトロポリタン・ウェブだ』」(第66頁)。
最後が「紀元前六〇〇年頃にマヤの祭祀センターや都市国家が栄え、紀元前四〇〇年以降はメキシコ中部の山間にある低地にそれとよく似た社会がいくつも興隆した。こうしたメソアメリカのセンターは『ナイル=インダス回廊』の文明のように融合することはなかったが、増大する相互交流が南北アメリカ大陸における最初の『メトロポリタン・ウェブ』を構成することになった」(第66頁)。
以上3つのウェブが、最初の『メトロポリタン・ウェブ』です。そうした中で、シルクロードを中心とした陸上輸送や季節風での移動を中心とした海上輸送が盛んになり、「紀元二〇〇年頃にはユーラシアとアフリカ大陸の大部分に広がり、どんどん密度を高めていくウェブが形成された。本書ではこれを『旧世界のウェブ』と呼ぶことにする」(第62頁)。
この「旧世界のウェブ」が拡大していく過程が、二〇〇年~一〇〇〇年の歴史です。
「二〇〇年~一〇〇〇年にかけて船やキャラバンの積載能力や到達距離が増大したおかげで、『旧世界のウェブ』は特に大海に面した海岸沿いや南西アジアと北アフリカの乾燥したベルト地帯に広がった。農産物、手工品、思想、疫病その他、文明化した生活が至るところで人間の経験を変えていくにつれ、文明は例外的なものでなくなった。二〇〇年より前は、文明化した社会は『旧世界のウェブ』の中に点在するだけだった。一〇〇〇年までにウェブは南へと拡大し、アフリカの大部分、南東アジア全域、陸地から遠く離れた島々が旧世界の文明に組み入れられた。北方への拡張によって包含された人々はもっと少なかったが、取り込まれた地域は広大で、朝鮮、日本、北ヨーロッパ、さらにステップや北方の森林地帯に住む人々のすべてが、文明化された農耕社会とさらに緊密な共生関係を築くようになった。その結果、一〇〇〇年までに『旧世界のウェブ』は並ぶもののない大きさに広がり、ユーラシアのほぼ全体とアフリカの大部分を巻き込んで、二億人ほどの人間を抱えるまでになった」(第135頁)。
また、同時代のアメリカ大陸のウェブについても、「南北アメリカ大陸にも『メトロポリタン・ウェブ』(大都市圏のウェブ)がいくつか出現したことだ。『アメリカのウェブ』内部でのつながりは、運搬技術が大きく遅れていたせいでユーラシアよりもずっと弱かった」(第153頁)と言及しています。
その後の一〇〇〇年~一五〇〇年の歴史は、「旧世界のウェブ」が拡大していくというよりも、緊密化していく歴史です。
「『旧世界のウェブ』の中核地域で一〇〇〇年から一五〇〇年にかけて起きた変化は、世界のそれ以外の地域におけるどんな出来事よりも激しかった。五世紀にわたって相互交流が増え、専門化が進み、断続的にではあっても生産が増大し、市場価格や政治的な命令に応じて人間の労働力がますます結集されるようになったことは、『旧世界のウェブ』の中核地域が持つ権力と富をかつてなかったほど巨大にした。それと同時に、『旧世界のウェブ』はとりわけ西端のヨーロッパ地域でますます不安定になっていった。やがてそこで起きる劇的な変化は、その後の数世紀にわたって地球上のすべての様相を変えていくことになる」(第214頁)。
これで、1巻は終わりです。「ウェブ」にのみこだわり引用しました。
各時代ごとにウェブがどう拡大し、緊密化していくか、という視点が貫かれていることが分かると思います。
引用した箇所は非常に抽象的ですが、その他の箇所で具体的に引用箇所の意味を説明しているので、非常に分かりやすいです。
例えば、「人間の集団は熟達した狩猟者として地球上に広がり続け、獲物が大きいほど狩りで得られるものも多かったから、彼らは大きな動物を好んで狙った。新しい環境で出合う大型の獣は警戒心を持たず、肉体的に貧弱な人間を怖れることもなかったため、近づくのは容易だったはずだ。いずれにせよ、オーストラリアと南北アメリカでは、狩猟する人類の進出と、広範囲にわたる大型動物絶滅の時期がかなり接近している」(第24頁)というように、因果関係の説明が、詳細に記されていて、納得感が得やすいです。
また、ところどころに、「だが真実は誰にも分からないし、マドレーヌ文化の担い手たちに何が起きたのかも分かっていない」(第35頁)というように思い込みで歴史を断定せず、真摯な態度で記述している姿勢にも好感が持てます。
まだ1巻の紹介なのに、長くなりました。次の2巻では、ウェブが世界的に拡大していく姿が記されています。